MOMENT/本多孝好
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本多 孝好
「最後のお願い。もしも今年と同じような夏がきたら、その時は私を思い出して。バイト代は出さないけど」
「思い出さないよ」と僕は言った。「絶対、思い出さない」
「思い出して」
僕の反論を見越したかのように電話の声は言った。
「きっとよ」 (FIREFLYより)
自分が死ぬとしたら、その時に何を考える?
んなこと言われてぱっと僕には思いつかない。
じゃあもう一つ質問。
もし死ぬ間際に一つだけ願いをかなえてくれるとしたら、何を願う?
僕ならば、何を思い浮かべるだろう。
今のところ思い浮かぶことは誰かと会うことかもしれない。
それが誰か、大切な友人かもしれないし、昔傷つけた人かもしれないし、
またそれとは違う誰かかもしれない。
まあ、そんな「かもしれない」僕の願いはここではどうでもいい。
もしそんな死ぬ間際に願いを叶えてくれる人がいたとしたら?
今回紹介する「MOMENT」の主人公がそうだ。
という訳で久々の読書感想。
本多孝好の「MOMENT」。
主人公・神田が掃除夫のバイトで働いている病院に伝わるある噂、
死を間近にした患者の願い事をかなえてくれる必殺仕事人がその病院にはいるという。
そんな必殺仕事人伝説をある出来事がきっかけで神田は受け継ぐこととなる。
そんな彼と4人の患者たちとのストーリー。
その願い事は時に切なかったり、あまりに幼いものだったり、悪意を伴うものだったりと様々だ。
主人公・神田、彼の存在がこの作品には欠かせない。
一見クールでスマートなように見えるけど、
結構義理堅かったり、頑固だったり、
願い事をかなえていうなかで怒ったり、やるせなくなったり、切なくなったりする人間臭い奴なのである。
そして依頼を通じて彼自身も少しずつ成長していく。
そんな彼の幼馴染として登場する森野の存在もまた欠かせない。
神田とぶっきらぼうなやりとりを交わしつつも、
時に彼や彼の抱える悩みの核心を射抜くかのような言葉を発したりする大事な存在である。
好きだなあ、このコンビは。
個人的には「FIREFLY」が傑作。
主人公じゃなくてもずるいって思うよ、あんなラストは。
切ないって、あれは。
もちろん、他の話も十分に面白いけど。
文章も読みやすくて爽やかで優しい作品なので是非ともどうぞ。